ワスレナグサ 4

ワスレナグサ 4

モウヤメルンダッ!!ナグサが欲しかったのは、本当にそんな結果か?!

ワスレナグサ 3へ

ミレニアムのF105教室についた。

・・・・ウイをはじめ、10人近くの人がいる。

空いた席をさがし、そこに座る。

私が座った直後に定刻になり、教室に1人の女性が入ってきた。

キヴォトスの覇権を握る女、羽沼マコトだ。

マコト「・・・・キキッ。どうやら希望者は揃ったようだな。」

彼女は私たちを見渡す。

マコト「・・・・ゲヘナ学園生徒会『パンデモニウム・ソサエティー』の議長、羽沼マコトだ。よろしく」

帽子を脱ぎ、頭を下げるその姿から見えるオーラ。

まさしくこのキヴォトスの王だ。

マコト「・・・・さて、今日お集まり頂いた方々はおそらく、このマコト様同様、キヴォトスの破滅を望まぬもの達だろう。・・・・・・その意思に感謝したい。ではウタハ部長。説明を始めてくれ」

彼女はそう言うと退壇する。

私たちの前に代わりに出てきたウタハは、プロジェクターに自分のタブレットを繋げ、映像が出てきたのを確認すると話し始める。

ウタハ「・・・・私がこれから説明するのは、『計画』の意義及び目標や、今後における実行段階についてだ。・・・・まずは」

彼女はリモコンを押してページを動かす。

ウタハ「・・・・この計画の意義。それは未だ拭えぬ『砂糖』の脅威から完全に脱却すること。」

『砂糖』。小鳥遊ホシノの死をもって終わったと思われていた一連の事変は、まだ終わっていなかった。

ウタハ「・・・ゲヘナ学園をはじめ、各学園は『砂糖』の流通を管理し、食用目的以外の方法にアビドス砂漠の砂を使うことでこの脅威を抑えようとしていた。つまりダメージコントロールだね。しかし『アビドスカルテル』のトップ、小鳥遊ホシノが生存している以上このプランは破綻する可能性が高い。・・・だからこそ我々は、改めてこの脅威から完全に逃れる方法を模索していた。そして出た答えこそ、この計画の最終目標さ。」

再びリモコンを操作する。

すると、複数の写真と共に文字列が現れる。

ナグサ(・・・・N-2384?)

ウタハ「N-2384。私たちが開発した人工衛星が発見した、キヴォトスより最も近い・・・キヴォトスと同規模の大きさを持つ大陸だ」

ウタハはリモコンを置き、私たちの顔を見渡す。

ウタハ「・・・・私たちの最終目標は、この大陸への植民。及びキヴォトスの機能の移転だ!」

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あの会議から帰ってきて、私は自宅の縁側で夜空を見上げていた。

ウタハ『キヴォトスの外は、先生やゲマトリア、さらには色彩に黄昏と、私たちではまだ説明しきれない事象が多数存在した場所だ。そのため、主に卒業予定の私たち3年生から志願者を募り、キヴォトスの外に先遣隊として派遣する!』

ウタハ『当然、この計画で命を落とす可能性もある。それを恐れるなら参加しない方がいい。』

ウタハの説明を頭の中で反芻する。

キヴォトスの外に行く機会。それが舞い込んできたなら、掴まない理由はない。

それがアヤメを助けることにつながるから。

でもいいのだろうか。

後輩を見守ろうともせず、アヤメ探しの旅に出てしまって。

・・・・・・・・アヤメ、私はどうすればいい。

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ハッ

鳥の囀りで目を覚ますと、すでに新しい1日が始まっていた。

寝落ちしてしまったと思いながら急いでシャワーを浴びる。

ナグサ「・・・・・・・・」

ザァァァァァァァァァ・・・・・・・・・

左手を浴室の壁につける。

冷たい壁。

水に触れていると、なんだか過去を思い出してしまう。

思い出したくない。

ナグサ「・・・・うぅ・・・・うっ・・・・」

過去への重い感情に震えながら、逃げるように浴室を後にした。


ナグサ「・・・・・・・・」

部屋着に着替えた私は、一枚の紙を前にしていた。

『キヴォトス移転計画参加同意書』

と書かれたそれは特殊なつくりで、サインすればすぐにエンジニア部に同意したことの通知がいくものだ。

私は筆を握りしめ、それにサインを書こうとする。

・・・・・・できない。

手が震えて書けない。

これを書いて、卒業後にキヴォトスから出ていくとする。

そうすれば、百花繚乱はどうなる?

キキョウやレンゲはいいとして、私と同じように百花繚乱以外に居場所を掴めていないユカリはどうなる?

色彩から、シュロから、砂糖から逃げたように・・・

私はまた、逃げるのか?

それも今度は同級生ではなく、本来自分が護らなくてはいけない後輩を置いて?

ナグサ「・・・・できないっ・・・・・」

膝をつき、畳にうずくまる。

そうだ。ユカリは私が守らなくてはいけない。

でも、私はアヤメを助けに行かなきゃいけない。

ユカリとアヤメに引っ張られて、このままでは千切れてしまう。

私の中には、迷いが渦巻いていた。

内臓が掻き回されそうな気分だ。

気持ち悪い。怖い。苦しい。辛い・・・・

『み、身共を助けてくださりありがとうございます!』

・・・私を押し上げる声

『アンタはいつも私の後ろに隠れすぎなんだって!もっと胸張って歩きなよ!!』

私を引っ張り上げる声・・・

『ナグサ先輩は、まさしく百花繚乱のえり〜とですわ!』

私の大切な・・・・

『大丈夫。私たち、最強だから』

・・・・・・私の大好きな

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「・・・・さん。・・・・ナグサさん」

はっ。

何をしていたのだろうか

畳には墨が散らばり、私の顔は少しぐちゃぐちゃだ。

そんな私を覗き込んでいた、狐耳の生徒。

ナグサ「・・・・カホ・・・」

陰陽部の副部長だ。

カホ「・・・・書類におよそ60ヶ所のミスがあったので直接訪れたのですが、何やらうめき声が聞こえたので門を壊して入らさせていただきました」

・・・・ひどい。また直さなきゃ

カホは私の背中をさすりながら、机に目をやる。

そして例の同意書を見つけて手に取った。

カホ「・・・・これは・・ニヤ様が言っていたアレですか。」

彼女は同意書を見たまま動かない。

ナグサ「あっ、あの・・・・返し・・・・」

カホ「丁度いいですね。このことについてニヤ様からの伝言も頂戴していますので」

彼女はそれを机の上に置くと、私に向き直って正座する。

反対されるだろうか。

アヤメの幻想に囚われるななどと言ってくるだろうか

しかし、彼女が発した伝言は私の想像と真反対だった、

カホ「・・・・この企画、ぜひ参加していただけないでしょうか?」

へ?

変な声が出てしまう。

カホ「・・・トリニティの予言者の言う通り、近いうちにキヴォトスには再び動乱の時代が訪れるでしょう。それも今回は防ぎようがないレベルで。このプラン・・・キヴォトス移転計画は、後世にわたってこの学園都市を存続させる上でできる最後の行動です。そのため新たなる時代でも百鬼夜行が影響力を持つためにはこのプランが不可欠。・・・・しかしニヤ様は次の動乱に向け、卒業後もここに残るおつもりです。私も次の部長になられるチセ様の補助があるので難しい。そこであなたにお願いしたいと考えています。」

・・・・つまりは、百鬼夜行が後の世界でも強い学校であるための礎ということだ。

カホ「・・・キヴォトスの外には、『黄昏の寺院』につながる扉が存在するとクズノハも言っておりましたし、ナグサさんにとっては重要な関心事項かと」

それはつまりアヤメにつながること。

そう思うと息が重くなる。

苦しい。

何かに利用されるために行きたいわけじゃないが、アヤメを助ける手段を逃すわけには行かない。

過呼吸になりながらも、私は回答する。

ナグサ「・・・・わかっ・た。でも、最後に・・・」

『証』のこと、百花繚乱のこと、そしてユカリのこと。全て吐き出し、私は再び畳に倒れた。

カホ「あっちょっとこの60ヶ所・・・・はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

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再び目が覚めた時は真夜中だった。

カホは私のためにどうやら布団を敷いてお風呂にも入れてくれたみたいだ。

私が左に頭を向けると、『証』と義手が置いてある。

箱に入れないと。

布団から出て、二つを箱に入れる。

蓋を閉じようとした時、ふと『証』が目に入る。

私が旅に出るなら、これは次の委員長に渡しておかなきゃいけない。

でも、そしたらアヤメの目標が、私とアヤメを繋ぐものがなくなってしまうような気がしてしまう。

『ナグサ!はいこれ!・・・・大丈夫だよ、2個買っといたから!』

・・・・そういえば、明日はエンジニア部に義手を診てもらう予定があった。

・・・・・・ついでにお願いしておこう。

この銃をもう一丁、作れないか。

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翌日、私は再びエンジニア部に来ていた。

ウタハ「・・・・ふむ。なるほどね。この銃を」

ヒビキが私の義手をメンテナンスしている間、ウタハは私の『相談』に乗っていた。

ウタハ「・・・・幽霊を捕まえる銃か。正直幽霊自体眉唾ものだと私は思うんだけどね」

・・・。

ウタハ「でも、ル◯ージマンションみたいなことができる銃なんて、ロマン溢れるじゃないか。・・・・ちょっと待っててくれ。解析しよう」

彼女はそういうと、銃を分解してもう一回組み立てたり、色々やり始めた。

ウタハ「・・・・しばらくかかるからね。少し外に出たらどうだい?」


そういうわけで、私はミレニアムタワーを徘徊していた。

ゲーム開発部、トレーニング部、メイド部、新素材開発部・・・・

この巨大なタワーにキヴォトスの技術の半分が詰まっているらしい。

特にこのゲーム開発部は有名だ。

『アンハッピー・シュガーライフ』という新作ゲームを売り出し、キヴォトスで飛ぶように売れているらしい。

・・・・そういえば、アヤメは好きだったっけ、ゲーム

『私こういうの大好きなんだ〜!SLGみたいにじっくりやるのも好きだし、FPSで実戦の練習したりとかさ!!!』

うん。そうだったね。

すると、向こうの部屋から叫び声が聞こえてきた。

私は慌ててそっちに向かい扉を開けると、紙の束がザーッ!!と出てきて、その中から1人の少女が出てきた。

モモイ「・・・・イタタタタ・・・・あれ?あなた誰ーー?!!!!」

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用語集

キヴォトス移転計画:当初はイブキが『キヴォトスの外を見たい』と言う理由で始まったゲヘナ単独での植民計画だったが、マコトの誤算×2によりキヴォトスを巻き込む大規模移民計画になってしまった。具体的なプランは今後やる予定のエンジニア編で掘り下げる予定。

この計画にウタハが賛同した理由は『ロマン溢れるから』

マコトの誤算:

1.小鳥遊ホシノの生存

マコトは彼女達が死んだものだと思い込んでいて、アビドス砂漠の砂糖問題はは後世にかけてゆっくり対処すればいいと考えていた。しかし彼女が生きている以上何をしてくるかわからないので早急に砂糖に対処しなければならなくなった。

2.アビドススナカネオオカミ

マコトのプランでは、砂糖による汚染区域をトリニティや山海経など一部自治区に絞ることで万が一再び砂糖事変のようなことが起こっても他の自治区での内乱を防ぎ、万全に対応するつもりだったが、シロコがマコトの預かり知らぬところであちこちに砂や砂由来のいろいろを売りまくっていたためどこまで広がっているかの把握が不可能になってしまった。かと言ってこれに関しては半分以上説明不足のマコトの落ち度なので切り捨てるなんて真似もできず、移住なんていう苦し紛れの策を講じる羽目になった。

アヤメの声:知らぬさ!所詮人は己の知ることしか知らぬ!

ル◯ージマンション:ゲーム開発部が作ったホラゲー。大人気。

今まで何でもかんでも自分で説明しそうなマコト様が専門家に説明を任せるようになりました。

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